PMの影響力

ロバート B チャルディーニ著の「影響力の武器」(原題: Influence : Science and Practice)を読んで、PMの影響力というものに関して考えてみた。
PMが相手にするものはPJ運営であるが、その時の実際の相手はチームであり、人間である。PJ運営をうまくこなすためには様々な技術は必須であるが、チームと人間に作用する為に必要なものの一つとして影響力は重要であると考えられる。いくら技術的に正しい方法論であっても、そこにチームと各人の納得感が伴わなければPJは正しく進んでいかない。

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人間の社会的行動原理

「影響力の武器」によると、人間が自分の行動を決めるための心理的原理は以下の6つがある。

  1. 返報性         :受けた恩は返したい
  2. コミットメントと一貫性 :自分が過去に決断した内容と一貫した行動をとりたい
  3. 社会的証明       :みんながやっているからそうすべきだと思う
  4. 好意          :仲良しの提案にはYesと言いたい
  5. 権威          :権威がある人の提案が正しいことと思いこむ
  6. 希少性         :希少性がある物事は価値が高いと思い込む


PMツールとしての「影響力」

どこかの誰かに、自分の進める提案に関して「Yes!」と言わせたいときに、この6つの原理のどれかを使うと、自分の思うように相手に「Yes」と言わせる事が出来るという。
優秀な営業マンや詐欺師も使う手法であるということである。
つまり、この6つの原理を知ることは、PMにとって、チーム運営を自分の思い通りに進めようと思えば、有用である。
しかし、相手を騙すことも出来るため、この手法をマネジメントツールとして使うことは、PMとしては倫理的に問題になる場合も考えられる。
また逆に、PMが周囲のステークホルダーから言いくるめられないようにする防御手段として理解しておく必要性があるとも言える。

次に6つの原理の内容をもう少し深堀しておく

返報性

 スーパーで凄く美味しい試食を渡されて食べてしまうと、買わなければならないという衝動に襲われることがある。また、バレンタインデーにチョコレートを貰うとお返しをしなければならないと考える。これが返報性の原理である。
 ビジネス上の商談などを円滑に進めることができるが、詐欺師や、悪質な訪問販売、催眠商法でよく悪用される手法である。先のスーパーでの試食のように、一時的なビジネスとしては成功を収められるが、長期的には客はその試食販売を避けるようになり、長期的なビジネスとしては悪手である。PMもこの手法を一時的な利益をチームにもたらすために利用しようとすると、長期的なチーム運営にとっては悪影響が出ることが考えられる。しかし、見返りを求めずに常に「Give、Give、Give」の姿勢であれば、長期的なマネジメントには良い影響をもたらすと思われる。


コミットメントと一貫性

 子供のクリスマスプレゼントに、ロボットのおもちゃを買うと約束(コミットメント)した父親は、たとえクリスマス時期にそのロボットが見つからず、別のプレゼントを買ったとしても、クリスマス後にそのおもちゃ見つけると買ってしまう。これは、自分の発言に対して一貫した行動をとりたいという意識が働くためである。
 マネジメント手法としては、目標管理がこれに合致する。部下に対して目標をコミットさせると、部下はそのコミットに応じた動きを行っていく。PJ運営時に、逆に、このコミットと反する動きが必要となった場合、PMはこの一貫性を明確に変化させてあげる必要性があるかもしれない



社会的証明

 「みんな寄付してくれました。」という一言で、大学で行われる募金活動には、多くの募金がされる。自分と同じ境遇を持った大多数が行っていることと、同じことをしようと考えてしまうことがある。周囲に同調することで、自分自身の不安を払しょくして安心感を得ようとしているのである。
 プロジェクトで何か新しいことをする場合、他の人も同じことをしているという事例を提示すると、チームメンバが安心感を持つことが出来そうである。




好意

 単純に好意を持っている人間や尊敬している人間の提案に対しては、「Yes」という傾向がある。
 これをマネジメントに使うのであれば単純に好意を持たれるひとになるや、尊敬に値する人間になればよい。


権威

 人間は権威を持った人間に対しては、盲目的に服従する傾向がある。これは、そうすることが秩序を維持するために役立つと教育されているからである。
 PJの運営の観点で考えると、各ステークホルダの中には権威をもつ人間も当然存在する。このため、そのステークホルダの意見を盲目的に信用せずに、一旦冷静になって考える必要がある。


希少性

 「数量限定販売」や「タイムセール」などの、機会がすくない物事に対しては、その内容にかかわらず価値があると思いがちである。
 PMに応用できるケースは少なそうであるが、偶にしか怒らないことでその言葉の価値を上げるという使い方は出来るかもしれない。